あやまった雷

雷が逃げ込んだとされる井戸
雷が逃げ込んだとされる井戸

雷ちゅうたらな誰でも知ってるわな。
夏になったらゴロゴロ、ピカピカちゅうおとろしいやつやな。
あいつの御馳走ちゅうたら、なんと人間のオヘソやてぇ。
そやよって、夏やいうてもオヘソをほうり出して走り回ってると、あの雷がゴロゴロ、ビシャーンと落ちてきて、びっくりしてる間に、さっとオヘソをとっていくんやて。
やっぱりお行儀ようしてやなあかんで。
ずっとむかし、和歌山の北の方に木ノ本八幡宮ちゅうお宮さんがあったんやして。、、、ウン、いまでも立派なお社があるわな。あのお宮さんで起きたことや。
あそこにものすごう立派な杉の木があった。
ある夏の日のことやして。西の方から黒い雲が湧き出したと思うと、にわかにものすごーい夕立ちになり、ピカピカ、ゴロゴロと鳴り出したんよ。
あんまし雷の音が大きいので、もう宮司さんもびっくりしてもうて、ブルブル震えてたんや。

そしたらまたも耳もわれるよな音がして、どうやら境内に雷がおちたらしいわ。
宮司さん、びっくりして神さんのお札を手にすると、本殿まで走っていった。
そしたら杉の木に落ちた雷が、あちこち荒らしまわってるとこやった。宮司さんもびっくりしたけど、持ってた神さんのお札を雷に向け
「こら!お宮さんに落ちてくるとはけしからん。しかもここは武勇の神さんをお祀りしてある八幡宮じゃぞ」
と大声を張り上げた。
これにも雷はびっくりしたわな。
「こりゃかなわん。あの宮司の持ってるお札だけは、わしゃ苦手やね、、、」
そういうて、お宮の階段をどんどん逃げていくんやしょ。
あんまし慌てたもんやよって、階段の途中でスッテンコロリ。
とうとう雷はつかまってしまい、そばにあった井戸へ放りこまれて、ガッシリと蓋をされてしもたんや。まっくらな井戸の中へ閉じこめられた雷は弱りきってしまい、とうとう泣き出して
「もう二度と落ちてこんよって、今度だけは許して」
と平謝りしたんで、宮司さんは助けてやったんやと。
それからあと、もう八幡さんには雷は落ちなんだ。
荊木淳己著「日本の民話 紀の国篇」より